「きみはあの月も 星も あんなものが本当にあると思ってるのかい」
『星を賣る店 クラフト・エヴィング商會のおかしな展覧会』を、二月の終わりの日に、見に行ってきました。世田谷文学館です。
『クラフト・エヴィング商會』とはなんぞ? というと・・・・・・
吉田浩美と吉田篤弘によるユニット名。著書の執筆と、装幀を中心としたデザイン・ワークを主として活動している。
(中略)
自著に登場する架空の品々を「ないもの、あります」の謳い文句のもと、さまざまな手法によって具現化し、自著と展覧会を通して数多く発表している。それらは「作品」ではなく、あくまで「クラフト・エヴィング商會」というセレクト・ショップが仕入れた「商品」として取り扱っている。(以上、パンフレットより引用)
という、奇特な(?)方々です。
吉田篤弘さんは、小説『つむじ風食堂の夜』の作者である、と説明すると、分かり易いかもしれません。
要は、「実在しないものを、アート作品として作り、本当に店で売っている体で展示する」という趣向なのですが、これが実に面白かったです。
「商品」は、「道化師の鼻」,「肺に咲く睡蓮の標本」(ボリス・ヴィアン!),「声の棺」,「稲妻の先のところ」・・・・・・
それらが白い箱に収まって、倉庫のように陳列されている。ひねりと洒落が利いていて、美しい品々。
小川洋子さんの作品世界を彷彿とさせるなァ、と思っていたら、小説とアートでコラボした本も出版なさっていました。
非常に素晴らしかったのは、展示空間内に出現した、架空の書店とショーウィンドーです。映画のセットさながらの、夜の街角が再現されていて、そのときちょうど私一人しかいなかったものですから、まるで霧に包まれた不思議な国にただ一人でいるような気分になりました。本当にうっとりするような濃密な不思議空間で、これを見るためにまた行きたいほどです。
そんな古書店『一角獣』には、村上春樹の『風の歌を聴け』に出てくる世にも名高い架空の作家、デレク・ハートフィールドの本『夢はいつだってここにある』が陳列されていました。(吉田篤弘さんが卒業制作のときにつくったものだと、御本で読みました)
そのあとのコーナーは、『クラフト・エヴィング商會』が実際に手掛けた装幀の数々が展示されております。
アアッ! これもこれも?! いやはや、あれも!!
となるような、書店でたしかに見たことがある、いやむしろ自分の家の本棚にもある本の装幀を、沢山手がけてらっしゃいました。(ちくま文庫の百けん集成とか)
アトリエが再現されていましたが、まさに創意工夫のかたまり。
こんな風にお仕事できたら、素敵でしょうねえ。
とてもおかしくて夢のある、素敵な展覧会でした。
最後に、この展覧会のチケットを。
真ん中が星形に型抜きされていますね。
この星はいったい、どこへ行ったのか?
答えは展覧会の中にあります。
――そう。まさに、「星を賣る店」なんであります。お見事!
*
「じゃ月や星はどういうわけで動くんかい」
自分が問いかえすと
「そこがきみ からくりさ」
その人はこう云ってカラカラと笑った 気がつくとたれもいなかったので オヤと思って上を仰ぐと 縄梯子の端がスルスルと星空へ 消えていった
(『一千一秒物語』 稲垣足穂)*
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
毎年のことながら、二月が終わるのが速すぎて笑いをこらえきれません。もう三月とか嘘でしょ?
こないだ年越したじゃん? 嘘・・・・・・???(^.^)
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